洲之内徹「言葉を超えたその向こうに」

「秋田義一ともう一人」
洲之内徹『人魚を見た人 気まぐれ美術館』新潮社
 最近では、九月に、旅行の帰途ふとその気になって倉敷へ寄ったとき、時間がなくて大原美術館だけ、それも本館と新館とを三十分ずつ駈足で見て廻ったが、こういう見方にも思い掛けぬ面白さがあって、特に日本人の画家のものを並べた新館では、その一人一人の画家について従来いろいろと語られている美術史家や批評家の言葉を超えたその向こうに、その画家の存在はあるのだということを、なぜかしらないが、私は強く感じた。
(中略)
 私は更に、日本人の油絵は、岸田劉生だろうと萬鉄五郎だろうと小出楢重だろうと安井曾太郎だろうと川口軌外だろうと鳥海青児だろうと松本竣介だろうとその他誰であろうと、みんな共通して、われわれ日本人のある切なさのようなもの、悲しみのようなものを底に持っている、と思った。(296頁)