洲之内徹「美しいものがそこにある」

「今年の秋」
洲之内徹『人魚を見た人 気まぐれ美術館』新潮社
汗をかきながら興奮して撮影を続けていたMさんは、終ると、その間傍でただ呆んやり煙草をのんで眺めていた私に、
「取材はもういいんですか」
 と、けげんそうに言った。そのとおりで、取材なんて面倒なことは、私は全然する気にならないのであった。美しいものがそこにあるという、ただそれだけでよかった。(90頁)