中原中也「あれは人魚ではないのです」

「北の海」

海にいるのは、
あれは人魚ではないのです。
海にいるのは、
あれは、浪(なみ)ばかり。

曇(くも)った北海の空の下、
浪はところどころ歯をむいて、
空を呪っているのです。
いつはてるとも知れない呪。

海にいるのは、
あれは人魚ではないのです。
海にいるのは、
あれは、浪ばかり。


川面を北風が吹きわたり、白波がたっています。中也に、「あれは人魚ではないのです」と重ねていわれると、人魚がいるような気持ちになるので、不思議です。

下記、
小林秀雄「中原中也の思い出」
です。