夏目漱石「Do you see the boy」

山村修『増補 遅読のすすめ』ちくま文庫

「Do you see the boy」
 これで漱石が the boy をゼ・ボイと発音したという私見(倉田卓次)に納得して貰えただろうか。
 なぜ、そんなことにこだわるのか。
 もうお分かりになったかたも多いと思うが、そう読まなければ、「猫」のあの英文の一行の存在価値(レーゾンデートル)がなくなってしまうのである。
 づうづうしいぜ、おい
 ドウユーシーゼ、ボイ
 こう並べ読んでこそ、打てば響くような日英語の語呂合わせであって、落語を愛した江戸っ子漱石らしい洒落になる。ザ・ボーイでなく、ゼ・ボイである最大の証拠は、実はこの二行の対応かも知れない。
(中略)
 それにしてもあざやかな読みだ。この文章を収録した『裁判官の書斎』の刊行が一九八五年、小林信彦『小説世界のロビンソン』の刊行は一九八九年。それを考えると、もしも倉田卓次がこの文章を書かなければ、一九九三年に出たあたらしい漱石全集(岩波書店)の第一巻『吾輩は猫である』に Do you see the boy の注解が設けられ、「前行の『づう~しいぜ、おい』の音を英語にもじったもの。漱石は ‘the’ を『ゼ』と表記することが多く…」などと記されることはなかったのではないかと思う。(146-148頁)

下記、
山村修『増補 遅読のすすめ』ちくま文庫(全)
「P教授曰く「文章がやせ細るだろ」_「四隅の時間」を惜しんで「四上」の読書です」
です。