「志村ふくみ『一色一生』_空即是色」


花は紅、柳は緑といわれるほど色を代表する植物の緑と花の色が染まらないということは、色即是空をそのまま物語っているようにも思われます。
 植物の命の尖端は、もうこの世以外のものにふれつつあり、それ故に美しく、厳粛でさえあります。
 ノヴァーリスは次のように語っています。

  すべてのみえるものは、みえないものにさわっている。
  きこえるものは、きこえないものにさわっている。
  感じられるものは感じられないものにさわっている。
  おそらく、考えられるものは、考えられないものにさわっているだろう。

本当のものは、みえるものの奥にあって、物や形にとどめておくことの出来ない領域のもの、海や空の青さもまたそういう聖域のものなのでしょう。この地球上に最も広大な領域を占める青と緑を直接に染め出すことが出来ないとしたら、自然のどこに、その色を染め出すことの出来るものがひそんでいるのでしょう。(17-18頁)