洲之内徹「それは、あなた、めでたくなったのよ」
「私の顔ーあとがきに代えて」
洲之内徹『絵のなかの散歩』新潮社
麻生三郎氏に私の顔を描いてもらったこのデッサン(略)を、ある婦人雑誌の女性記者が見て、イタリアの神父のようだと言い、
「イタリアの神父なんていうのには悪いのがいるんですってね、あっちこっちに子供を作ったりして……」
と言った。デッサンがすごくリアルなだけに、気になる一言である。
新潮社の人はさすがにそんな「はしたない」ことは言わないが、
「推定年齢八十歳くらいですね」
と、これまた、私の胸を抉るようなことを言った。
八十にはまだちょっと間があるが、この頃私は、絵を見れば絵がますます面白く、本を読めばどの本もみな面白く、女の人に会えばどの人も美しく、可愛らしく、まことに仕合せな心境に在る。先日、佐藤碧子さんと話していて、そう言ったら、佐藤さんは私の顔をつくづくと見て、
「それは、あなた、めでたくなったのよ」
と言った。私は、あまりめでたくない気分になった。(昭和四十八年春)(304頁)
と言った。私は、あまりめでたくない気分になった。(昭和四十八年春)(304頁)