河合隼雄「何もしないことに全力を傾注する」


「何もしないことが、力を生む」
「何もしないことに全力を傾注する」
「人生といかに折り合いをつけるか」
河合隼雄,谷川浩司『「あるがまま」を受け入れる技術 』PHP文庫(157-158,160-161,164-165頁)
 
 これは何度も本に書いていることですが、私のカウンセリングの考え方の基本は「無為」ということです。「何もしない」ということですね。それも「何もしないことに全力を傾注する」。

 クリシュナムルチの「ものごとは努力によって解決しない」という言葉が好きです。

 老子の言葉で、「無為をなせば、すなわち治まらざるはなし」というのがあります。これは政治の話でして、為政者が一部の人を優遇したりするから争い事が起きる、よけいな作為をしないでおけば治まらない国はない、ということを言ってるんですね。しかしこれは、心理療法でも同じことです。

 そうなるように僕が導くわけじゃないんです。もともとそういう可能性をその人が持っているんですね。その人がもともと持ってるものが自然に出てくるのを待つよりしようがない。だから、カンセリングというのは大変なんです。待ってるだけの商売ですよ(笑)。本当に気の遠くなるぐらい気の長い話ですね。
 大切なのは、ただ待ってるだけじゃないということですね。希望をちゃんと持っている。そこが違うんです。だから、長いこと待っていてもイライラしないんですね。下手な人は、待っているうちにイラつくんですよ。そうすると、相手もイラつくわけです。その点、僕なんかはもう堂々と待っていますから(笑)。
 「何もしないことに全力を傾注する」。それはものすごいエネルギーのいる仕事ですよ。よほどエネルギーがなかったらできないです。そのエネルギーをうまくコントロールできないから、爆発してイライラするんですね。