須賀敦子「翻訳という世にも愉楽にみちたゲーム」その二
大学二年時の英語の講義のテキストは、George Robert Gissing『The Private Papers of Henry Ryecroft』でした。一般教養の英語のテキストとしては大分なものでした。ギッシングの「ヘンリ・ライクロフトの私記」は平井正穂さんの翻訳で岩波文庫にありましたので、こんなにありがたいことはありませんでした。
Amazon さんの内容説明には「繊美この上ない自然描写」という言葉が使われていますが、ギッシングの「繊美この上ない自然描写」に適当な日本語をあてることができるはずもなく、前・後期の試験前には、平井正穂さんの訳をただただ感心して見入っていました。貴重な時間でした。日本語訳が文学の体裁をとるまでの長い道のりを思いました。翻訳の世界を垣間見た気がしました。