武満徹「翼 武満徹ポップ・ソングス」あとがき



 以前、偶々、石川セリの昔のアルバムを聴いて、自分が少しずつ、機(おり)にふれて書き溜めて来た小さな歌を、彼女にうたってもらって、なにか楽しいアルバムをつくってみたいな、と空想したことがあった。
 コロムビアの川口さんの提案で、思いがけなくも、私の夢は実現することになった。
 大衆歌謡(ポピュラー・ソング)としてはいかにも不器用で面白味に欠けるうたかもしれないが、編曲者の方々の今日的感覚(センス)が、それぞれのうたの特徴を生かして、面白いものに仕上げてくださった。
 心からお礼申しあげたい。
 きっと多くの方が、なぜクラシックの、しかもこむずかしい現代音楽を書いている作曲家がこんなアルバムを作ったりするのか、不思議に思われただろう。
 『翼』といううたにも書いたように、私にとってこうした營爲(いとなみ)は、「自由」への査証を得るためのもので、精神を固く閉ざされたものにせず、いつも柔軟で開かれたものにしておきたいという希(ねが)いに他ならない。
(後略)