「薄明時」
朝な夕なの薄明時を、釣り人たちはまずめ時と称し、魚の食いがたつ時間として大切にしています。まずめ時には風がおさまり、水面が静まりかえることが多く、不思議に思っています。
かわたれ時は、風景が一日のうちで最も静かなたたずまいを見せる時間です。日の出 三十分ほど前の時間帯です。不用意な私の動きが、波紋となって広がり、静寂を乱してしまいそうな気がして、私は静物となって、みじろぎもせず、行方を見守っています。釣りは一時(いっとき)の間おあずけです。かわたれ時には釣りは目的ではなく手段と化します。
たそがれ時は、かわたれ時とはまた趣を異にしています。たそがれ時の薄明には、いまだ昼のざわめきがあり、ざわつきが残っています。闇が準備され、星々の用意が進む静寂への序章であり、静粛な風景へのプロローグです。私の釣りの最盛期です。一匹を、そして次の一匹を求めて、忙しく動き回ります。たそがれ時が過ぎ、あたりが闇に包まれたころ、スローな釣りに切りかえます。モノクロームの世界に影をひそめて、ひとりを楽しみます。