橋本敬三 操体「快の向かうところ」その三


私は、立っているときの、また椅子にかけている際の子どもたちの姿、特に脚や足の置き方を面白く観ています。時にはそれをまねしてみることもあります。すると、体が今 何を窮屈に感じ、どうして欲しがっているのかがよくわかります。

ごく稀なことですが、痛みを訴える子どもの、その痛みに対処するために、操体を試みることがあります。そんなとき荒療治からはじめることもあります。仰臥位で両膝をそろえて立てた子どもの、膝の裏を探ると、大小の別はありますが、ほとんどの場合、シコリが認められます。そのシコリを強くあるいはそっと圧します。すると子どもは体をクネらせて痛がります。そのときに見せた体の行方が、今まさに体が「快」と感じている方向であり、「治癒」の方向です。その方向を見極めたいがためにあえて荒療治をするまでのことです。この痛みをともなう荒療治を繰り返せば、生体の歪みは自ずと正され、痛みは消えるはずです。痛みをともなう施術での治癒の原理です。体が欲する「快」の方向にさからう動きを故意にさせ、その際に生じる痛みによる反射運動を利用して治療しているのです。そんなバカげた話はありませんので、私はその後 操体を試みます。「快の向かうところ」にしたがいます。

橋本敬三「からだの設計にミスはない―操体の原理」たにぐち書店
橋本敬三『 生体の歪みを正す 橋本敬三論想集』 創元社