向田邦子「そんなこと言うと、くすぐっちゃうぞ!!」No1


「そんなこと言うと、くすぐっちゃうぞ」

「金属バット事件を起こしたひと言」
「外国人にとっての言葉の重み」
「森繁さんの二つの名スピーチ」
「らしい言葉」の貧しさ
「江戸落語のしゃれたひと言」
「 “バカ野郎”も “畜生”もあったほうがいい」


私の曖昧なつたい記憶をたどって…。

相手に対して腹を立てたとき、「そんなこと言うと、くすぐっちゃうぞ」という言葉が、古今亭志ん生さん演じる江戸落語の中に出てくる、というお話を向田邦子さんがされていらっしゃいます。

いかにも穏やかで、余裕があり、ユーモアがあます。そして何よりも相手への気づかいがあります。

早速私もまねて、子どもたちに、
「こんなことも解らないと、くすぐっちゃおかな」
と、何度となく言ったことがあります。
が、いつもいつも、
「キモイー」
の一言で片づけられてしまいます。

本気で怒るときには、「くすぐっちゃうぞ」とのん気に構えているわけにはいきません。「くすぐちゃうぞ」では、こちらの「本気で怒っているぞというエネルギー」が相手に伝わりません。怒ると怖いと言われますが、怒ったときに怖くなかったら、怒った意味がありません。怒ると気分を損ねます。ふて寝をして気分を一新するしかありません。怒りたくありません。が、立場上怒らなければ示しがつかないこともあります。

聞くと、中学校の先生方は怒ってばかりおられます。怒ることを仕事としている稀有な職業です。心の均衡がよく保てるな、と感心しております。