中井久夫「なぜか患者さんはよくなる」ことの因るところ
中井久夫「なぜか患者さんはよくなる」ことの因るところ
2015/08/22
◇中井久夫
「こんなこと言うでしょ?『若いときは病気はわかるけど病人はわからない。中年くらいになってくると病人がわかってくる。年を取ってくると、病気も病人もわからないけど、なぜか患者さんはよくなる』って。まあそれくらいのことは私も言えるかもしれないですけどね。」
◇茂木健一郎 / 江村哲二
江村 音楽の世界なら、バーンスタインが言っているけれども「自分が指揮者になれるか、自分に指揮者の能力があるかどうか、など考えたこともなかった。ただただ音楽が好きで好きで仕方なくて音楽をやっていた」と。実際にウィーン・フィルのコントラバス奏者から聞いたのですが、バーンスタインの振る指揮棒は、全然テクニックがないらしい。でもそれでいいんだと言う。「テクニックなんて全く持ってない。ただハートがすばらしい。あの人が来るだけで、あのハートに酔っちゃうんだ」と言っていました。
茂木 バーンスタインについては同じような話を僕も聞いたことがある。前に立つだけで音楽が変わっちゃうって言いますね。
江村 あの人が出てくると棒なんてものは、はっきり言っていらないんだって(笑)。
茂木 江村さんのご友人の大野和士さんも、先日私が司会をしているNHKの番組( 『プロフェッショナル 仕事の流儀』)に出られたときに、「最後は指揮者は振らなくていいんだ。究極は、じいっと彫像のようにそこにいるだけで音楽が変わるということが指揮者の理想なんだ」と言っていました。
◇「なぜか患者さんはよくなる」ことの因るところ。
◇「最後は指揮者は振らなくていい」ことの拠りどころ。
◇ 存在が存在を鼓舞する。
◇ 存在が存在を鼓舞する。
追伸:「何もしないから治る」のかもしれませんが、「何もしない」ことは一大事です。
追記:河合隼雄は、京都大学の最終講義で、
「余計なことをしない、が心はかかわる」
とおっしゃられています。
講義名は、「コンステレーション ー 京都大学最終講義」でした。
茂木健一郎 / 江村哲二『音楽を「考える」』ちくまプリマー新書(四八-四九頁)