茂木健一郎 / 江村哲二『音楽を「考える」』_「江村哲二さんの超越的経験 その二」


「江村哲二さんの超越的経験 その二」

江村 危険?

茂木 脳には、あるところでブレーキをかけるという安定化機構がホメオスタシスとして備わっています。フロー状態というのは、その制限をかけているタガを外してしまった状態ですから、それをどう外すかというのは生命体にとって深刻な問題なのです。

江村 それは、後になってはじめてわかりますね。作曲ではないときにもし同じことが起きたら、ちょっと危ないなあと思います。
 だけどこの体験をして作っ曲は、外国である賞を貰うことに繋がりました。本当に集中をしたときに出てくるものというのは、何かが込められていると思います。
 でも不思議なのは、そのようなインスピレーションというものを、どうすれば手に入れることができるのか、全くコントロールできないということなんです。自分がどうしたらそうなれるのかが全然わからない。降臨というか、何かが降りてきたみたいな感覚で、待つしかないわけですが、この辺りの話は脳科学ではまだまだ未解明なのですか?

茂木 そうですね。僕は大きな流れとしては、最近の脳科学の狭さについてずっと考えていました。(後略)

◇茂木健一郎 / 江村哲二『音楽を「考える」』ちくまプリマー新書