「ええんや、ええんやで!!」


 湖北はもう晩秋の装いでした。
 琵琶湖への釣行の夜、長浜港の観光船乗り場の駐車場に車を駐め、エンジンをかけっぱなしにして、暖房を入れ、一人車中で寝ていると、深更、
「コツコツ、コツコツコツ」
とウィンドウガラスをノックする音に目を覚ましました。
 寝ぼけ眼で外を見やると、警察手帳の身分証明書の頁をこちら向きに差し出した警察官の方と目が合いました。
「まずかったかな」と思い、窓を開け、
「ここに車を駐めてはいけませんでしたか」
と私はたずねました。
すると、
「ええんや、ええんやで!!」
という意外なことばが返ってきました。
はじめて聴く関西弁でした。あたたかく、包容力があり、優しさに包まれたことばでした。
 排気ガスを車内引き込んで自死しているかもしれない、と思われたのだと思います。
 安堵の気持ちのいっぱいにつまった「ことば」でした。
私には、生きているだけで「ええんや、ええんやで!!」に聞こえました。