「オレは城海津でしか釣りはしない」という高らかな宣誓


「寿司なべ」さんの大将とその愉快な仲間たちといっしょに、季節が到来すると、朝早くから起き出し夏ハゼを釣って楽しんでいました。

「寿司なべ」さんの大将は、
「オレは(実家のある、子ども時代を過ごした)城海津(しろがいつ)でしか釣りはしない」
と、寿司屋の大将らしくキッパリと断言していました。

スキンヘッドの頭に、帽子がわりに「おしぼり」をちょこんとのっけて夏ハゼを釣っている姿は愉快でした。発泡スチロールの箱とブクブクを持参して、ハゼを生かして店に持ち帰っていました。私たちは、大将の毎朝の仕入れに協力していました。

若くして大将は過労が原因で亡くなられました。今では息子さんが立派に後を継いでいらっしゃっいます。

何年かして息子さんと出会い「お父さんの供養にハゼを釣りにおいでよ」と誘うと、翌朝息子さんは新調した釣り道具を手に、緊張した面持ちで、待ちかまえていた私たちの所にやってきました。

下手くそな釣りでした。教えこまないといけないな、と思いました。

かくいう私は、大将の遺志を一人受け継ぎ、
「ぼくは「夏ハゼ釣り」と「ウナギ釣り」と「シジミ採り」に限っては、城海津界隈でしかしないつもりでいます
と、なんとも歯切れの悪い、意気地のないことばを胸の内でつぶやいています。