「白洲正子の本領_円空 観音群像」

「湖北の旅」
白洲正子『十一面観音巡礼』講談社文芸文庫
 この群像(千光寺)は、彼の晩年に造られたが、その頃になると、神仏の区別などどうでもよくなったに違いない。技法は極端に省略され、神も仏も木の魂のようなものに還元してしまう。いわゆる木っ端仏との違いは、巧くいえないが、神像の雰囲気があることと、小さいながら重厚な形態を備えていることだろう。性急な息づかいも、駆け足の騒々しさも、もうそこにはなく、粉雪の降りしきる中に、森々と立つ雑木林の静けさがある。円空はついに木彫の原点へ還った。いや、日本の信仰が発生した地点に生まれ返ったというべきか。(279-280頁)