「 倉本聰は“その筋の方々”が好きである」
倉本聰『新テレビ事情』(文藝春秋、一九八三年)二三二頁。
倉本聰は“その筋の方々”が好きである。
「世の中には色んな人がいる。色んな人がいるがやっぱりどこかでみんな共通した人間である訳で。
父親参観日に出かけるやくざ。リポビタンD のオンザロックを飲む組長。そういうはんぱな人間たちの意外な人間味をふと見せられるとどうしてもいけません。僕の血は騒ぐ。つい感動し好きになりたくなる。
しかしやっぱり、やくざはやくざ、好きになってはいけない人でありーー。」
「やくざ」を生業(なりわい)となさっている方々は、「男であること」へのこだわり、見栄が人一倍強い方たちである。が、悲しいかな、「やっぱりどこかでみんな共通した人間であるわけで」、ふとした折に、ふとしたことで、「意外な人間味」を露呈してしまうのである。やくざな方々とは、男の哀しさを一身にうけたような方たちである。
石橋 倉本さんはどちらかというと、男を書く作家ですね。
杉田 そうですね。レイモンド・チャンドラーに「強くなければ男じゃない。優しくなければ、生きていく資格がない」という言葉がありますが、男に対する憧憬みたいなものが強い。
石橋 男は強くて優しくなければならない。そして、女に対してそうでなければならない。見栄なんだな。そういう少年のような見栄が倉本さんの脚本のすみずみまで、漲っているものね。決してヒーローじゃないが、強くて、優しさを求めて懸命に努力している人間を、最終的には描いていると思いますが。
男であることへのその痛ましいまでのとらわれ、ーーこれは倉本聰の手になる男たちが、倉本聰によって吹きこまれた宿業とでもいうべきものである。
「倉本聰私論 ー『北の国から』のささやきー」
「第二章 5. 男であること」(14/21)より。