「小林秀雄『真 贋』_神さまに、たとえ誤りがあろうとも」

小林秀雄『真 贋』
小林秀雄『モオツァルト・無常という事』 新潮文庫(226-242頁)
「研究者には欲はないが、美は不安定な鑑賞のうちにしか生きていないから、研究には適さない。従って研究心が欲の様に邪魔になる事もある。」(230頁)

 小林秀雄の文章に真偽を問うのは愚かである。日本語が、これほど精緻な「美」を成すことにまず驚く。「美」は、詮索に堪えない。
 『真 贋』を読みつつ、「真贋一如」ということを思った。「真贋」は、相補的な関係にあり、混然一体となっているところにおもしろみがある。「贋」なくして「真」はたちまちのうちに姿を晦(くら)ます。これほどつまらない世界はない。