中野好夫「万古不易の翻訳論の名言」


平明(2)ーー読む人の側に立つ
  よく引用されることですが、英文学者の中野好夫に「あんたのおばあさんが聞いてもわかるようにちゃんと訳してくれ」という言葉があります。教室で学生にいった言葉だそうです。英米文学者の佐伯彰一はこれを「万古不易の翻訳論の名言」といっています。
辰濃和男『文章の書き方』岩波新書(105頁)

 「万古不易の翻訳論の名言」を知ってしまったからには、使わない手はなく、早速昨夜の授業から使わせていただいております。

 最後には、「あんたのおばあさんが聞いてもわかるようにちゃんと訳して」ほしいのですが、はじめから、「あんたのおばあさんが聞いてもわかるように」訳されるとちょっと困ります。単語や熟語の意味はわかっているのか、文法や文の成り立ちを理解したうえでの訳なのかがこちらに伝わってきません。直訳からはじめています。ガチガチの英文解釈の授業をしています。そして最後に、「あんたのおばあさんが聞いてもわかるようにちゃんと訳してくれ」と言うことにしました。英文和訳の問題を解く場合、私はこの英文をちゃんと理解していますよということを、採点者に示すために、「あんたのおばあさんが聞いてもわかるようにちゃんと訳」さない方がいい場合もあります。どのくらい「平明」な日本語にしたらいいのか、そのあたりは出題者とのかけ引きです。「あんたのおばあさんが聞いてもわかるようにちゃんと訳して」マルをくれれば一向に構わないのですが。