「桂離宮_石橋のある風景」

 2022/08/08 に「三徳山 三佛寺 投入堂」について書いた。今回は「桂離宮」についての記述である。2022/03/09 の「改訂編」である。

俵万智,十文字美信 他『桂離宮』(とんぼの本)新潮社
 桂離宮は華奢である。
 各部材は建物の荷重をかろうじて支え、各室は枯淡の美に蓋われている。それは、庭に配された飛石や延段、池に掛けられた石橋と相即不離の関係にあり、それらの石材によって補償されているかのようである。
 襖に目を奪われる。それだけを取りあげて話題にしたとき、困惑するような色づかいも、大胆なその意匠も、それぞれに適所を得てみごとに鎮まり、各所に調べを添えている。
 美は常に危うさをはらんでいるが、桂離宮は、すんでのところで、高次の調和を呈している。
 本書には、三つの石橋の写真が載っている。いずれも一つの石材から成るもので、上面はきれいな平面を成している。その美しさは縦横の比、また高さの比率からなるものであろう。石橋の寸法に合わせて、池を修正したかのようにさえ思われる。
「5m 余りの大石橋」は、力学的な関係からか厚みがあり重厚である。側面には凹凸が刻んであるが、単調になることを避け、見る者を飽きさせない工夫であろう。池の狭い箇所に掛けられた「反橋」は、橋を反らせることによって長さを補完しているのであろう。もう一つの石橋にはこれといった特徴はみられないが、この石橋を基本形と考えてよさそうである。私は細工の施されていないこの石橋が一番好きである。
 桂離宮は贅を尽くして簡素に作られた建築である。理にかなわないことはないはずである。
 彼のブルーノ・タウトが称えた美を前に立ちつくしていたい。美を体験するとは、すなわち、自足した平安な沈黙の内にあることにほかならない。
 今秋が楽しみである。