中井久夫「マッサージ師はお客さんの病気をいただくのか、命が短いのです」


「私たち(マッサージ師たち)はお客さんの病気をいただくのか、命が短いのです」

 マッサージ師にかかっている医療者がじつに多いですね。ただ、これは相性が重要です。お客さんが即効性を要求するからでしょうが、一般にマッサージが強すぎます。私の名古屋時代のマッサージ師はじつに私に合っていて、「今日はむずかしい患者を診てこられましたね」などと当てたものです。施術の後にぬるいお茶を一杯くださって、ちょっと離れた畳部屋で十五分寝かせてくれました。わかっている人だなと思いました。マッサージでは一般にノドが渇きますから。また、終わってすぐお金を払って出て行くと、それまでのくつろぎが吹き飛びます。特に人ごみの中へ戻るのでは。
 私がむずかしい患者と連日取り組んでいたときですが、この方は、一回マッサージをした後、三週間休まれました。再開してから「センセイの身体をもんでから何か妙な感じがして働けなくなりました」と言われました。
 一年後に亡くなられて息子さんの代になりましたが、息子さんは「私たちはお客さんの病気をいただくのか、命が短いのです。父のようなことはできません」と言われ、そのとおりの施術でした。
 これは、患者の自己身体イメージと実際の身体を測る研究のきっかけにもなりました。
(中略)

ところが、論文を二、三書いただけでこの研究を切り上げたのは、研究者が先のマッサージ師と同じ反応を起こして診療にも日常生活にも差し支えるに至ったからです。タフな男を選んだのですが。いや、タフだったから、かえってよくなかったのかもしれません。