河合隼雄「こころとからだの中間の病気です」


「こころ」と「からだ」
ーー考えすぎないための資料として

●たんなる「こころの病気」ではない
 精神科医療を〈こころ〉の病気だという際の最大の副作用は、家族や隣人、ときには本人までが、「こころがけが悪いからなった病気である」と考えることである。これは有害な誤解である。むしろ、もう少しこころがけが悪くなってほしい患者のほうが多いくらいだ。
 では、どこの病気であるのか。河合隼雄氏は、「こころとからだの中間の病気です」と答えるようにしているそうだ。(12頁)

●〈こころ〉と〈からだ〉のあいだには
 〈こころ〉と〈からだ〉のあいだには、それでは何があるのか。ここで心身問題がでてくる。心身問題とは、昔から哲学者や医者を悩ませてきた「こころとからだの関係はどうか」という問題である。これはあまり考えすぎるとわけがわからなくなるので、「考えすぎないための資料」を記す。
1. 二つは別々に離れているわけではないのに、〈こころ〉から始めるといくら行っても〈からだ〉に達せず、〈からだ〉(脳)から始めるといくら行っても〈こころ〉に達しない。
2.(前略)もっと単純に、脳とこころとは紙の表と裏のようなもので、二つに分けることもできないが、同時に両方を眺めることもできないようなものだと考えてもよい。酒が少し入るだけでこころに大きな変化がおこるのだから、生理と心理とは文字どおり表裏一体なのだが、「表裏一体」ということは同時に両方から眺められないことでもある。(12-13頁)