「暑気払いに_小林秀雄の遺作『正宗白鳥の作について』を読んで」

「正宗白鳥の作について」
『小林秀雄全作品 別巻2 感想 下』新潮社
 「正宗白鳥」と、その「作」中の「島崎藤村」,「内村鑑三」。「河上徹太郎(君)」と彼が愛読したイギリスの伝記作家「リットン・ストレイチイ」、また彼の描いた『ヴィクトリア女王』。「フロイト」。そして、「ニーチェ」を挿んで「ユング」に至り、当書は、(未完)のままに完結した。
 以上が、主だった登場人物である。表題に掲げた「正宗白鳥の作」を容易に乗り越え、小林秀雄の筆は自由闊達、融通無碍である。

(内村鑑三の)極度に簡潔な筆致は、極度の感情が籠(こ)められて生動し、読む者にはその場の情景が彷彿(ほうふつ)として来るのである。(230頁)

(内村鑑三『代表的日本人』に)描かれた人間像は、西郷隆盛に始まり、上杉鷹山(ようざん)、二宮尊徳、中江藤樹(とうじゅ)とつづき、これを締(し)め括(くく)る日蓮上人(しょうにん)が、一番力を入れて描かれているが、装飾的修辞を拭(ぬぐ)い去ったその明晰(めいせき)な手法は、色彩の惑わしを逃れようとして、線の発明に達した優れた画家のデッサンを、極めて自然に類推させる。これらの人々の歴史上の行跡の本質的な意味と信じたところを、このように簡潔に描いてみせた人はなかった。これからもあるまい。(233頁)

読者は、曖昧な感傷性など全く交えぬ透明な確固たる同じ内村の悦びに出会うのである。(233頁)

 テーマはいくつかあるが、次回は、小林秀雄による「文章作法」について書くことにする。いま一番の関心事である。