「薬剤師の稲垣さん」


昨日診察後、薬をいただく際に、長年来お世話になっている女性の薬剤師の稲垣さんに、
「この頃は常駐ではないんですね」
と話しかけると、
「誰かいい人はいませんか」
と尋ねられました。私がそんな問いかけに応えられるはずもなく、
「父のつき添いで、いくつもの調剤薬局さんに行きますが、稲垣さんほど手際がよく、優秀な薬剤師さんを私は知りません。入院患者さんのお薬もすべて一人で調剤されているんですよね」
というと、
「はい」
とのお返事でした。稲垣さんの私を見つめるまっすぐな目に気づき、言葉を探しました。
「稲垣さんほどの優秀な方のお眼鏡にかなうような、薬剤師さんはなかなか見つからないんじゃないですか」
というのが、やっとでした。

薬を手渡した後、ちょと斜めかげんに頭をぺこんと下げるお辞儀は、なんともかわいらしくユーモラスです。昨日はじめて額にきざまれたしわに気がつきました。稲垣さんの薬がよく、稲垣さんの手ずからいただく薬がいいのですが、思いがけずも直視せざるをえない現実にふれ、いたたまれないままに、病院を後にしました。