「あわてる」


セブンイレブン豊橋U店で、「Peace Super Light(煙草)」を三つ、計1380円の代金を、五千円札と四つの百円硬貨で支払い、お釣りを受けとり、精算しました。その際にはくじを一枚引いてください、と言われましたが、結構です、とお断りし店を出ました。

そして、何時間かを自宅で過ごし、財布の中を見ると、紙幣が一枚もなく、混乱しました。近頃とみにあやしくなった自分の頭を真っ先に疑いました。五千円札と千円札を間違えたのかもしれない。ありえないことではなく悄然とし、心あたりを探しましたが、見つかりませんでした。その頃にはお金はもうどうでもよく、気になるのは自分の頭のことばかりでした。そして、ご迷惑とは重々承知しつつも、疑いをはらすべく、セブンイレブン豊橋U店さんに確認のお電話をしました。

電話口には店長さんが出られ、ほっとしました。アルバイトの店員さんとのやりとりは、やっかいで、はかどりません。私の勘違いかもしれませんが、と前置きし、事情をお話しすると、
「何時頃、ご来店になられましたか」
と尋ねられましたので、
「九時から十時の間だと思います」
と答えると、
「いまビデオとレジを確認しますので、しばらくお待ちください」
とのご返事でした。数分後には、
「クジを引くのを、結構です、と断られた方ですか」
といわれ、予期せぬ言葉にあわてながらも、
「はい、そうです」
と返事をしました。
「確かに五千四百円おあずかりしましたが、二十円のお釣りしかお渡していません。こちらの不手際で申し訳ございませんでした。あとの四千円をお返しいたしますので、都合のよいときにおこしください。よろしくお願いいたします」
とのことで、電話を切りました。

これほど容易に人物が特定できることに驚くとともに、脅威を感じました。それにしても、くじを引くのを断ったことが、幸いするとは思ってもみないことでした。

店長さんがいらっしゃるときに、と思い私は早速家を出ました。
「私どもが、お宅までお届けにまいるのが本当のところですが、わざわざ足を運んでいただき申し訳ありませんでした。担当のものにはよく注意しておきますから」
ということで、
「ご心配の頭の方はまだ捨てたものではなく、よかったですね」
と微笑んだ、所在のわかった四枚の千円札を財布にしまい、お詫びの品としていただいた、いくつかのドーナツの入った紙袋を提げて店を後にしました。

その日、私はくじを引いたのか、引かなったのか。くじを引いたとすれば、それは当たりくじだったのか、ハズレくじだったのか、貧乏くじだったのか。考えるほどに思うほどに、老化の進んだ私の頭の中には濃い霧が立ちこめるばかりです。