「倉本先生、博打を打つの巻」

 
 茶畑 倉本先生、富良野に入ってきたの、丁度おれのいまの年なんだ。四十三歳…。
 仲世古 へえー、そうか。
 茶畑 結構迫力あったね、あの先生。
 相澤 来た頃はあまり忙しくなかったようだね。いつも麻雀やってた。
 ーーお上手なんですか、(倉本聰)先生は。
 相澤 うまいよ。ただ、ああいう性格だ、血の気が多いから。負けてくると、すぐカァーッとするらしいんだ。まあ、おれからするとやりやすい相手だね。
 茶畑 負けると、倍、倍とかけてくる。
 仲世古 そうだ。
 茶畑 しんけんになっちゃう。マジに遊ぶ。いつだったかな。元旦にバクチ大会やったの。テラ銭というんだから、バクチはお寺でやったんだろうってね、お寺で新年恒例会をかねて開帳したわけ。ヤクザの恰好をしてね。みんな三百万の札束用意してくること。もちろん、上と下だけ一万円札、中身は古新聞。三百枚、揃えて切るんだ。まじめな仕事だね。倉本先生、やる以上は本格的に、正式に、というわけで、本物のバクチ打ちに聞いてきた。
 仲世古 あれだろ。阿佐田哲也。
 茶畑 そうだ。チンチロリンね、本物のバクチは。ところが、これがおもしろくないんだ。それで今年は、いい加減の時、合図すっから別のをやろうと皆で相談して決めていた。そのうち、合図があったんで、おれ、「さあ、このへんで別のバクチに変えましょう」といったら、「お前、そったらもんバクチでない」と怒鳴ったんだ、先生。おれも酔っぱらっているし、かっときて、「てめえ、人のナワバリに来てなにいうんだ!」とやり返した。とたんに、「なに!この野郎!」と投げてきた。見たらドス、本物のナイフ。おれのは子供の修学旅行の抜けないやつ(笑)。このへんで「まあ、まあ」って、だれか止めに入ってくれればいいのにさ、だれもとめないんだ。白けちゃった。
 ーーすごいですね。
 茶畑 二、三日たったら、「悪かった。酔っていた」なんて言ってくるの。それで元に戻る。とにかく、まじめなんだ。
 相澤 倉本先生、冒険的なこと何でも好きなんだ。挑戦する。血がさわぐんだべな。この間、会ったら、今度は十勝岳を馬で越えたいっていってた。そのため馬の稽古しにオーストラリアに行ってきたんだからって。自信ついたって言ってた。
(中略)
 相澤 それから、天塩川をカヌーで下りたいんだそうだ。そんなことできるかな。(56)

(註)
(56) 仲世古善雄、相澤寅治、茶畑和昭、宮川泰幸  司会・今野洲子「(座談会)北の国・富良野・から(富良野紳士談義録)」北海学園北海道から編集室『倉本聰研究』理論社)197-198頁。


「倉本聰私論 ー『北の国から』のささやきー」

「第三章 3. その底流にあるもの」(19/21)より。