倉本聰「演技指導の風景_怒髪天を衝く」

  
 ーー演技指導のときはどうですか。
 仲世古 そりゃあ、すごいですよ。意見が対立することってあるでしょう。ふつう、対立しても妥協しますよね、いい加減のところで。先生はまず妥協しないんですよ。
 茶畑 ほとんどぶつかる。一生懸命だから。
 仲世古 ここまでは許せるけど、ここからは許せない、脚本家としての責任だからって聞いたことあります。
 宮川 横で見ていてハラハラすることありますね。
 茶畑 自分が世の中にどれくらい影響力があるかってこと気がついていないんでない?なんか、われわれと同じように怒鳴ったりする。ぶるっちゃうよ、ね。
 仲世古 だからいいドラマできるんだろうけど。
(中略)
 茶畑 先生、怒ってたって気がつかないんでしょ。
 相沢 うん。わかんないな(笑)。
 茶畑 向こうはそうとう頭に血がのぼってるんだ。知らないだけだあ(笑)。(57)

 まさに倉本聰こそ「稚気(バカ)」ではないか。
 「稚気(バカ)」ゆえに、自分を偽ることなく怒るのである。自分を繕うことなく、飾ることなく怒るのである。ところかまわず、なりふりかまわず怒るのである。執拗に怒るのである。無邪気に、健気に怒ることができるのである。

(註)
(56) 仲世古善雄、相澤寅治、茶畑和昭、宮川泰幸  司会・今野洲子「(座談会)北の国・富良野・から(富良野紳士談義録)」北海学園北海道から編集室『倉本聰研究』理論社)199-200頁。

「倉本聰私論 ー『北の国から』のささやきー」
「第三章 3. その底流にあるもの」(19/21)より。