「走る月」

 帰り際、 
「月がものすごい速さで動いている」
と、中ニ生のS君が言い、夜空を見上げました。
 明月の前を、薄雲が間断なく流れていました。
 「走る仏像」。
 「仏像が走る」のであれば、「月が走る」ことに疑念をはさむ余地はなく、S君は、「走る月」を、私は「行雲」を、しばらく二人して眺めていました。

以下、
土門拳「走る仏像」
です。