TWEET「絵本 Best 7」

 学生時代、当時 児童文学作家として活躍されていた、砂田弘先生の講義、「日本児童文学」で、はじめて絵本と出会った。砂田先生の講義は、はるかに「日本」を越えていた。その後にはやはり、河合隼雄の影響が大きい。
 以下の、7冊の絵本が手元にある。いずれもさしあげては、購入することを繰り返した絵本ばかりである。私の手元に置いておきたい、Best 7 である。Best 7 は、たちまち私の手をすり抜けていく、Best 7 でもある。真新しい絵本ばかりである。

◇ 松谷みよ子著,瀬川康男絵『いないいない ばあ』童心社
◇ 松谷みよ子著,いわさきちひろ絵『おふろでちゃぷちゃぷ』童心社
◇ V. ベレストフ原案,阪田寛夫文,長新太絵『だくちる だくちる ― はじめてのうた』福音館書店
◇ エリック・カール作,もりひさし訳『はらぺこあおむし』偕成社
◇ レオ・レオニ著,谷川俊太郎訳『じぶんだけのいろ ー いろいろさがしたカメレオンのはなし』好学社
◇ レオ・レオニ著,谷川俊太郎訳『スイミー ちいさなかしこいさかなのはなし』 好学社
◇ レオ・レオニ著,谷川俊太郎訳『フレデリック ー ちょっとかわったのねずみのはなし』 好学社

 絵本を読む際には、遅読を心がけ、絵に目を凝らしてください。簡単に頁を繰らないでください。絵本とは、絵が主、文は従と心得てください。特に、レオ・レオニの絵は卓越していて、細部を注意して見ないと面白みが半減します。
◆ 松谷みよ子著,いわさきちひろ絵『おふろでちゃぷちゃぷ』童心社
の、いわさきちひろさんの描いた「紫色」は鮮やかです。「紫色」に魅かれ、購入しました。学生時代には、「ちひろ美術館」に何度かお邪魔しました。
◆ 松谷みよ子著,瀬川康男絵『いないいない ばあ』童心社
で、生後2か月の姪の長女が笑いました。大いなる試行でした。当書は、1967年に出版され、出版総数 700万部を越えるロングセラーです。
◆ レオ・レオニ著,谷川俊太郎訳『フレデリック ー ちょっとかわったのねずみのはなし』 好学社
は、大人のための絵本です。
 谷川俊太郎さんの和訳は感心しません。原文は知りませんが、日本語の絵本ですから、下手な日本語をあてがわれると困惑するばかりです。ましてや、フレデリックは詩人です。原文を意識しすぎているように感じています。谷川さんらしくなく、残念です。
「たとえば『神聖さ』…これはいったい何を表す言葉なんでしょう。無神論者なのに、わたし(レオ・レオーニはこの言葉をやたらと使ってしまうのです。『神聖さ』とは、たぶん、わたしがいちばんできのいい作品のなかに求めているものなのだと思います。人間としての尊さや誇り、また、ひとつの文明を何十億もの人々と一緒になって築き上げる歴史に参加している、という喜びの瞬間を感じさせるものであってほしいのです。
芸術作品をつくるという行為を、意義あるものにしているのはこれだと思います」(松岡希代子『レオ・レオーニ 希望の絵本をつくるひと』美術出版社 178-179頁)
 エリック・カール,もりひさし訳『はらぺこあおむし』偕成社
の評判は知っていましたが、いままで手にすることはありませんでした。が、今回立ち読みし、人気の理由の一端を知り、Best 7 入りです。帯には、「数や曜日を学べる」と書かれていますが、こういったおせっかいな、狭量な考え方が、せっかくの絵本をだいなしにします。
 私の最も好きな絵本は、
◆ V. ベレストフ原案,阪田寛夫文,長新太絵『だくちる だくちる ― はじめてのうた』福音館書店
です。
 長新太さんの筆致や色づかいは大胆で勢いあまって、すてきです。長新太さんは「ナンセンスの神様」との異名を
おもちです。
 長新太さんの数ある絵本のなかで、一番のお気に入りの絵本は、『ブタヤマさんたらブタヤマさん』でもなく、「キャベツくんシリーズ」でもなく、『だくちる だくちる ― はじめてのうた』です。

 以下の2冊を加えて、Best 9 にしようかどうか、迷っています。
◇ レオ・レオーニ著,藤田圭雄訳『あおくんときいろちゃん』至光社 
は、世界で最もよくできた絵本といわれています。
◇ 新美南吉著,かみやしんイラスト『でんでんむしのかなしみ』大日本図書
は、新聞記事ではじめて知りました。
1998年のことです。クリック(タップ)して、全文をぜひご覧ください。
 なお、
は、青空文庫でどうぞ。

原元美紀「皇后さまの15年越しの想い 〜デンデンムシのかなしみ〜(改)」
「まだ小さな子どもであった時に、一匹のデンデンムシの話を聞かせてもらったことがありました」
「自分の背中の殻には悲しみがたくさん詰まっていて『生きていられない』と思っていたデンデンムシが、周囲のデンデンムシに相談すると、友達もみんな悲しみを持っていることを知り、嘆くのをやめた、というお話です」
「かなしみはだれでももっている。わたしばかりではない。わたしはわたしのかなしみをこらえていかなければならない」
「美智子さまにとってこのお話は、その後幾度も記憶に蘇ってこられたそうです」
「生きていくということは、楽なことではない」とお感じになられながらも、『この話が決して嫌いではなかった』そうです」
「読書は私に、悲しみや喜びにつき、思いを巡らす機会を与えてくれました」
「本の中には、様々な悲しみが描かれており、自分以外の人がどれほど深くものを感じ、どれだけ多く傷ついているかに気づかされたのは、本を読むことによってでした」

 Best 7、Best 9 以外にも、いまは無き思い出の絵本があります。河合隼雄推薦の、
◇ ダニエル ピンクウォーター著,谷川俊太郎訳『らくがきフルート』童話屋
も、その内の一冊です。いま古書で 1万円の値段がつけられています。いまが売り時かと、知らせようにも知らせる相手が不明です
 私の蔵書は、みごとに散逸してしまいました。絵本はその最たるものです。お手ごろだからでしょう。
  絵本のもちかたを間違えないでください。ただかわいいだけでは困ります。ぜひ無邪気な世界に遊んでください。(2479文字)