梅雨晴の間に間に_「西行と明恵 その二」
白洲正子『西行』新潮文庫
〈原文〉
紅虹(こうこう)たなびけば虚空(こくう)いろどれるに似たり。白日かゞやけば虚空明かなるに似たり。然れども虚空は本明かなるものにもあらず、又色どれるにもあらず。我又此の虚空の如くなる心の上において、種々の風情をいろどると雖(いへど)も更に蹤跡(しょうせき)なし。此の歌即ち是れ如来の真の形体なり。(14頁)
〈白洲正子訳〉
美しい虹(にじ)がたなびけば、虚空は一瞬にして彩(いろど)られ、太陽が輝やけば、虚空が明るくなるのと一般である。わたしもこの虚空のような心で、何物にもとらわれぬ自由な境地で、さまざまの風情(ふぜい)を彩っているといっても、あとには何の痕跡(こんせき)も残さない。それがほんとうの如来(にょらい)の姿というものだ。(15頁)
言葉もなく、ただ沈黙するばかりである。