「地下足袋で歩きながら、つらつらと」春の湿原を行く(前編)


01/31 以来、二か月あまりぶりに散策に出かけました。地下足袋を履いたのも、デイパックを背負ったのも、サーモスとお出かけしたのも二か月あまりぶりのことです。駐車場に車を駐め、地下足袋に履き替え 16:45 に出発しました。ハルリンドウが一番のお目あてでした。はじめて、力王の「縫付たび ファイター12枚」を履きました。「貼付足袋」にはない、「縫付足袋」特有のしなやかさがあり、土を踏みしめたときの感触、しっくりと湿原の木道を捉える感じは格別でした。


お目あてのハルリンドウは、毎春咲く場所には見あたらず、目を凝らしつつ、木道上を行きつもどりつしましたが、時期を逸したのか、それとも花期はこれからなのか、どうしても見つけることができませんでした。しかし、執拗な私の姿に、ハルリンドウが応えてくれたのでしょうか、木道の脇に咲く幾株かのハルリンドウを探しあてることができました。


「ハルリンドウ」は趣のある、濃やかな紫色の花をつけます。可憐で上品です。紫色は高貴な色ですが難しい色です。一つ間違えるとたちまちのうちに転落し品を失ってしまいます。


葦毛湿原では、植生回復作業がたんたんと進められており、雑木が切られ、清々とした明るい空間が広がり、土があらわになりました。幾筋もの細い水の流れが見られるようになり、あちこちに水たまりができていました。


ハルリンドウが花を咲かせる、いつもの場所は湿地に変わり、生育環境を失ったハルリンドウは、かたく殻を閉ざしてしまっているのだと思います。回復とは現状の破壊を意味します。


市には植生回復作業に反対する意見が寄せらているそうです。(現況の)自然を破壊しての自然(湿原)の回復作業です。どちらを自然と呼ぶのか。私はどちらも自然ではないと考えていますが、意見の分かれるところだと思います。湿原の各所には植生回復作業の意義・内容・成果等々を記した掲示があり、豊橋市美術博物館は、「葦毛通信」 を(およそ)月に一度発行しています。それは、たいへんな気のつかいようです。


「保全生態学」がご専門の大学の先生の下で、植生回復作業が行われていることを、ボランティアで植生回復作業に従われている初老の Gさんからお聞きしました。Gさんは、「植生回復作業は、次の世代に遺すことのできる、私の最後の仕事だと思っています」と話されていました。


私自身は、植生が回復しみごとな湿原が現れることを願っています。ただし、その際には、「植物園」との憎まれ口をきくことになるかもしれません。が、悪しからず。