「早朝の湿原を行く」

 早朝の湿原は静まっていた。歩を緩めた。久しく忘れていた歩調だった。秋分の日の今日、陽は真東から差していた。
 湿原を一巡し、人気のない沢沿いの林道を歩いた。流れのなかの適当な岩に座り、じっとしていた。目の前にはサワガニがいた。サワガニは微動だにしなかった。
 早朝の湿原は様相を異にしていた。おかげで、すっかり緊張から解かれた。