「刀剣_『鉄』に表れる個性と美」

貴金属ではない「鉄そのもの」を鑑賞する文化が日本以外にあるのかどうか、
(中略)
しかしその原材料の性質や制作技法ゆえに刀身に表れるさまざまな要素を、日本の刀工たちは意識的にコントロールし、流派や個人の特徴を表出させながら発展させてきた。
 また鑑賞する側も、その違いを細やかに観察して表現を磨き、あたかもソムリエが極上のワインを分析・描写するがごとき緻密さ、詩情をもって、刀の特徴を描き出す。(ただし行きすぎると鑑賞ではなく鑑定になってしまう)
(中略)
機会があればぜひ、ガラスなしで実物を見て、例えば地鉄なら「地色青く紫の心底あり」、刃文なら「笹の葉に積もった雪のむら消え」などと古来言われる、鉄だけに表れる美しさを味わってほしい。
(BRUTUS「刀剣」2018年9月15日号 40頁)