中井久夫「日本の文化とは『気疲れ』のする文化である」
中井久夫,山口直彦『看護のための精神医学 第二版』医学書院
●「気疲れ」ということば3.〈こころ〉と〈からだ〉とは、眠っているときは区別があやしくなる。
4.〈こころ〉と〈からだ〉は、文化によって分け方が違う。
欧米では、〈こころ〉と〈からだ〉の二つである。ドイツの精神科医ベランケンブルクによると、健康なドイツ人は「精神の疲れ」と「身体の疲れ」の区別がわかる。しかし統合失調症になるとわからなくなるそうだ。ところが日本の患者に聞くと、話が違う。患者でなくともよい。日本では、疲れは、
・あたまの疲れ(たとえばむずかしい数学をやったあとの疲れ)
・気疲れ
・からだの疲れ(長い道を歩いたあとの疲れ)
の三つである。
このなかで「気疲れ」がいちばん苦しく、尾を引く。精神科の患者は、皆が皆、
「自分の疲れは気疲れである」
「あたまの疲れやからだの疲れは1日眠れば治るが、気疲れはそうはいかない」
「気疲れが高(こう)じて病気になってしまった」
と言う。患者でなくても、日本人は「気疲れ」がどういうものかがよくわかっている。いちばん治りが遅いことも知っている。欧米の人に説明するのに「対人関係に関係した疲れである」と言うといちばんわかる。アメリカの精神科医サリヴァンは「精神医学は対人関係の学である」と言っているのを思い合わせたい。(13-14頁)