白川静「『字書三部作』の偉業」
「ことばと文字」
白川静『漢字』岩波新書
「はじめにことばがあった。ことばは神とともにあり、ことばは神であった」と、ヨハネ伝福音書にはしるされている。」(2頁)
「文字は、神話と歴史との接点に立つ。文字は神話を背景とし、神話を承けついで、これを歴史の世界に定着させてゆくという役割をになうものであった。したがって、原始の文字は、神のことばであり、神とともにあることばを、形態化し、現在化するために生まれたのである。もし聖書の文をさらにつづけるとすれば、『次に文字があった。文字は神とともにあり、文字は神であった』ということができよう。(3頁)
「文字は、神話と歴史との接点に立つ。文字は神話を背景とし、神話を承けついで、これを歴史の世界に定着させてゆくという役割をになうものであった。したがって、原始の文字は、神のことばであり、神とともにあることばを、形態化し、現在化するために生まれたのである。もし聖書の文をさらにつづけるとすれば、『次に文字があった。文字は神とともにあり、文字は神であった』ということができよう。(3頁)
また、「さらにつづけるとすれば」、「文字は埋もれていた。文字は白川によって蘇生し、文字は神の威光を回復した」「ということができよう」。
『別冊太陽 白川静の世界 漢字のものがたり』平凡社
本誌には、以下の対談が掲載されている。
「対談 ① 神と人との間 漢字の呪力 梅原猛 × 白川静」
「対談 ② みえるもの・みえないもの “境”の不思議の出来事 岡野玲子× 白川静」
「対談 ③ 孔子 狂狷の人の行方 梅原猛 × 白川静」
白川静 91歳。
矍鑠(かくしゃく)としている。また、「狂狷の人」である。
それぞれの質問に対し、その都度必要十分な回答がなされる。寸分の隙もない回答に疲弊するばかりだった。休み、寝みの三日がかりの読書だった。
白川静への興味は尽きない。
一昨日、叔父の四十九日の法要後、
◇ 白川静『孔子伝』中公文庫
を、珍しく書店で購入した。孔子への関心ではなく、
「第四章 儒教の批判者」
への興味である。
そして、今日中には、
白川静『回思 90年』平凡社ライブラリー
が到着することになっている。
これで、白川静の本が、
◇『別冊太陽 白川静の世界 漢字のものがたり』平凡社
◇ 白川静 監修,山本史也 著『神さまがくれた漢字たち』理論社
◇ 白川静『漢字』岩波新書(2冊)
◇ 白川静『初期万葉論』中公文庫
◇ 白川静『漢字百話』中公文庫
計 7(8)冊になった。お目当ては、「神々」のことである。
「『尹』が見えました ー 神が書かせ給うた…」
「対談 ② みえるもの・みえないもの “境”の不思議の出来事 岡野玲子× 白川静」
白 川 そんなもの(神との交通を司る者「尹」)が憑(つ)いとるんかな。僕には見えんがな、後ろには目がないからね。そう。その三人が三部作を書いたのかな。そうすると僕は手を動かしとっただけかな。
いや自分でもね、ほんとに僕が書いたのかなあって思う時がある。瞬(またた)く間にやったからな。『字統』は一年で書いてしまったでしょ。『字訓』も一年で書いてしまった。『字通』はね、用例などを吟味しておったから、それで手間がかかった。
そうか、三人も憑いとるか。(120頁)
白川静は神々との交通整理役に徹した。その旗振りはみごとだった。白川は意のままにペンを走らせた。長年月にわたる白川の、神々との交際が結実した。神々は、「字書三部作」の偉業をさぞお慶びになられていることだろう。
神々に愛された人、白川静はやはり大き過ぎる。