倉本聰「役者とタレントの違い」

「第11章 店に入ったら壁を背にして座る」
倉本聰, 碓井広義『ドラマへの遺言』新潮新書

 「役者とタレントの違いってどこだっていうことをうちの塾生たちにも言うんですけどね、タレントっていうのは喫茶店に入っても自分の顔を隠して壁に向かって座るんです。
 自分の顔を客に見せない。役者はね、壁を背にして店の中を観察してますよ。
 僕も絶対に壁際に座って客を見てますね。そうしないと人の生態ってものが分かんないでしょ? 観察するのが、見るのが役者であって、見られるのがタレントなんです」(213頁)

 誰からも見られず誰も見えず、閑とした席が好みです。ただし、聞きづてならない話には耳をそばだてています。一番の雑音は、アルバイト店員・パート店員同士のおしゃべりです。ファーストフード店では季節を問わず花盛りです。ときには店長自らが率先して、という椿事もあります。あいにく花見をする趣味はもち合わせておらず、さっさと席を立つことにしています。
 ホワイトボードの横の壁に向かって授業をしています。真横を向き、子どもたちからすれば、一本の線と化し、最も子どもたちの眼に障らない立ち位置が心地よく、もし子どもたちと眼が合おうものなら大変です。この頃では、正座をして背中を丸めて、という姿勢も多くなりました。タレントもなく、役者志願でもなく、改悛の意思なく、進展なく、日陰者であり続けたい、と思っています。