「よくよくおかしな星の下に生まれたもので」


 よくよくおかしな性格に生まれたもので、我ながらあきれています。
 
 一夏中掃除をしませんでした。気にはなっていましたが、暑い盛りに動けば汗みずくになるのは明らかで、とても掃除をする気にはなれませんでした。夏期講習をやり過ごし、改訂された教科書を読み終え、土日講習の準備を整えと、いろいろなことを一つずつ片づけ、そしてなによりも秋めき、一昨日から掃除をはじめました。秋めいたとはいえ、ここ数日間の残暑はひときわ厳しく、動けばすぐに汗ばみます。夏にかかなかった汗をいまかいています。

 掃除に凝った時期があります。酸性の汚れは弱アルカリ性の重曹(炭酸水素ナトリウム)で中和し、また重曹は研磨剤にもなり、アルカリ性の汚れは酸性の酢やビネガーやクエン酸、炭酸水で中和すれば、容易に落ちます。用途別に幾種類もの洗剤をそろえる必要はなく、食品ばかりですので、体へのまた環境への負荷も少なく安心です。また、その際には、掃除をしやすいようにと、掃除を最優先に考えた部屋の配置換え、模様替えをしました。
 何ヶ月かを要し、家の中がかたづくと、あらばかりが目立つようになり、応接セットを出し、フローリングの上に敷いてあったカーペットを除き、要らないなものは思い切って捨て、カーテンを新調し、電気の傘を替え、畳の張替えをしました。一応の完成をみると、私の掃除熱はみるみるうちにしぼんでいきました。

 掃除熱は冷めましたが、依然中核部分は残っていますので、いまでも大いに役立っています。一昨日には学習塾の教室として使っている八畳ふた間の掃除をしました。二時間半あまりかかりました。昨日は八畳間の書斎兼寝室と廊下、それに続く階段と玄関の掃除を終えました。三時間ほどかかりました。体力がなく休み休み、一服しながらの作業ですので、なかなかはかどりません。掃除をし終えた部屋は明るく、息苦しさから解放され清々としています。
 掃除をしなければしないで無頓着で、いざはじめればはじめたで隅々まで完璧にしたく、完璧を期するのは無理難題なこととは承知しつつも、心穏やかでなく、「しないよりはした方が断然マシ。しないよりはした方が断然マシ」と呪文を唱えながら、騒がしい心を鎮めています。厄介な性格です。自分でももてあましています。
 今日は私のくつろぎの場である応接間と階下の廊下と台所を予定しています。台所の片隅には五十二個の牛乳パックが軒を並べていて壮観です。何年来の頭痛の種でしたが、昨年のちょうどいまごろ、貝印の「カッター カートンオープナー 」なる優れものを手に入れてからは、指を痛めることもなく、軽快に牛乳パックを展くことができるようになり、今では林立する牛乳パックを卑下しています。

 掃除の仕方や汚れの落とし方全般は先刻承知なのでだいじょうぶ、という安心感が災いし、掃除の頻度は低くなるばかりです。

 時系列に並べれば、登山とトレッキングにはじまり、バスフィッシング、その後にはPCに熱をあげ、続いてシーバスフィッシング、キスの投げ釣りに夢中になり、料理、掃除、PCオーディオ、地下足袋を履いてのトレッキングと、私の興味関心は目まぐるしく変わり諸々のことが足早にやってきては足早に去って行きました。

 熱しやすく冷めやすいのかといえば、そうともいえず、たとえばPCを例にとれば、自分にとって必要十分なことができるようになると、それ以上のことには手を染めず、次なることに目移りするといった具合です。釣れるには釣れる訳があり、釣れないには釣れない訳があります。釣れないうちはあの本を読み、この本を読み、あの人に訊き、この人に尋ねと、夢中ですが、ある程度思い通りに釣れるようになると興味は半減します。その後には、つれづれに釣りに出かけ、ひとり静かに釣趣を堪能し、釣り味を楽しむことで終われば、落着するのですが、新たな魚種を求めてさまよい、夢中なり躍起になって、彼此をも忘れ疾走します。負のスパイラルに陥ります。釣りは魔物です。用心が肝要です。世の中ではこれを、熱しやすく冷めやすい、というのかもしれませんが、私の熱し方は尋常ではなく、私はこの言葉に多少の違和感を覚えています。

 これは、食についてもいえることです。本格的な調理道具をそろえ、食材や調味料にこだわり、料理の本を買いあさり、食についての随筆を読みふけっていた時期があります。ビール片手の男の料理(?)でした。できたての熱々の料理を鍋やらフライパンやらから直接つまんでいましたので、決しておかずになることはありませんでした。贅沢なおつまみを戴いていた時代でした。

 ミスタードーナッツやマクドナルドに飽くことなく通いつめ、、マッターホーン(手作りのケーキ屋)、ぶどうの森やショパン(いずれも手作りのパン屋)でパンを食すること数ヶ月におよび、次なる店に見当をつけると、その店へ足繁く通うことになります。マッターホーンに通いつめていた何ヶ月もの間は、アイスコーヒーとケーキ一つ、または二つのみという食生活をしており、そのころの私の体はケーキでできており、ケーキの芳香を放っていました。おしゃれといえばおしゃれですが、体重はみるみるうちに落ちていきました。

 磯辺巻きが今の主食です。実に簡素な料理(?)ですが、餅、焼き海苔、醤油、餅の焼き加減、餅と焼き海苔の比率には、多少なりとも私なりのこだわりがあります。このごろでは、タンパク源にと、牛乳、納豆と卵、豆腐もレシピに加えています。

 偏食に過ぎます。これではみすみす病を招きいれているようなものです、とは頭では理解しているものの、相も変わらずで、おかしな星の下に生まれ私の性格は、頭でコントロールすることができる域をはるかに超え、ひとり歩きをし、私の食生活はなかなか改まらず、仕方ないことと半ばあきらめています。