長谷川和夫「故・河合隼雄さんの忠告」

 突然、読書の趣向が変わった。
 父が「介護老人保健施設(老健)」に入所して二年ちかくになる。先月の下旬から様子がおかしく、準備を急いでいる。

「故・河合隼雄さんの忠告」
長谷川和夫『認知症でも心は豊かに生きている ー 認知症になった 認知症専門医 長谷川和夫の 100 の言葉』中央法規 
河合隼雄(かわいはやお)さんは、生前、認知症医療の現状を「患者は物語を持って病院に行き、診断名だけを貰って帰る」と話されていました。私は、本当に耳の痛い言葉であると思いました」(192頁)

 米国の「臨床心理学者」、カール・ロジャースが「来談者中心療法」(「クライエント中心療法」,「パーソンセンタード・アプローチ」)を創始したのは、1940年代のことだった。一方、英国の「老年心理学者」、トムキットウッドが「パーソン・センタード・ケア」を提唱したのは、1980年代末のことである。
「臨床心理学(カウンセリング)」と「老年心理学」を単純に比較するつもりは毛頭ないが、河合隼雄の眼には、早くから、「認知症医療」の現場は、非人道的に映っていたのであろう。「パーソン・センタード・ケア」と「臨床心理学(カウンセリング)」との間には共通する領域が多くみられる。河合隼雄の言葉を、「忠告」と解し、「耳の痛い言葉」であると受け止めた、長谷川先生は立派である。
 さて、前回のブログで、 
「やはり、何かと地方都市は不利だと思う。人材不足と相俟って、保守的で、旧態依然としている感が否めない」
と書いたが、当地で適当な医療機関が見つかるのだろうか。猜疑の念を抱いている。
 父はいま、病の温床である、「退屈」「無為」「無関心」な生活を送っている。私には三日ともたないだろう。


◆ トム・キットウッド&キャスリーン・ブレディン著,高橋誠一監訳,寺田真里子訳『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと / パーソンセンタードケア入門』筒井書房
を注文した。古書である。早い到着が待たれる。(806文字)