土門拳「聖林寺 十一面観音立像蓮華座」

聖林寺の十一面観音立像については、
◇ 白洲正子『十一面観音巡礼』講談社文芸文庫
の口絵の、右側面から撮られた白黒の写真が圧巻である。撮影者は不明である。「単行本」や「愛蔵版」では同じ構図のカラー版が表紙を飾っている。
 闘い終え、満身に創痍を負った勇者が、傷を癒すために深い瞑想に入っているかのように見える。表情は厳しく体躯は剛健そのものである。また、頭上の化仏(けぶつ)は、勇士に捧げられた守護神さながらである。
 2019/10/23 に聖林寺を訪れた。はじめての拝観だった。観音堂には私ひとりしかおらず、何時間かを過ごした。高邁な御姿を畏まり仰ぎ見ていた。繊美な指の表情に目を凝らしていた。
しかし、
◇ 土門拳『古寺を訪ねて 奈良 西ノ京から室生へ』小学館文庫
に掲載されている、
◆「聖林寺 十一面観音立像蓮華座(れんげざ)詳細」
の記憶がすっぽり抜け落ちている。細部ではなく蓮華座全体の記憶がない。
「上を上へと指向し幾重にも重なり合った花弁は、蓮華座を嵩高にしている。肉薄の花弁は、黄葉した葉を寸分のすき間もなく生けたかのような格好である」(112-113頁)
 いくら記憶は定かではない、とはいえ、重症である。収束を待って聖林寺へ、そして本堂から神と崇められている三輪山をと思っている。