「『寒いね』と話しかければ」

「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ
俵万智『サラダ記念日』河出書房新社

 「『寒いね』と話しかければ」、「なれてます」と答える女の子がいて、「かわいそうな子ですね」と言えば、微笑っていました。
 俵万智さんとは同窓生で、俵万智さんは一つ上の学年に在籍されていました。佐佐木幸綱先生に師事され、『サラダ記念日』が上梓され、ベストセラーになったのは、在学中のことでした。当初は、地下鉄 銀座線の「田原町」と間違える友人がいて、大いに笑わせていただきました。あの頃は、穏やかな時間が流れていました。


以下、
馬場あき子「新しい短歌のために」
光村図書出版『国語 2』(中学校二年生の国語の教科書)
からの引用です。

 思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ  俵万智駅(たわらまち)
 
 ここに歌われた思い出は、遠いものではなく、まだ体温も感じられるほど温かなものです。麦わら帽子にある一つのへこみ、それはたぶん、夏いちばんの思い出、いや夏の一切を思い出させてくれる大切なものなのでしょう。帽子のへこみに寄せる思いにはほのぼのとした美しさがあります。そしてこの歌の柔らかな語感や親しみ深さは、口語の力によるところが大きいでしょう。
 このように短歌は、その歴史の中で新しい時代の言葉を次々に消化し、日本語を磨きあげてきました。そして、短歌は今も、若い世代による若い言葉を待っているのです。(66-67'頁)