小林秀雄「学問をしたいというのは、人間の本能ですからな」(音声ファイル)


 まあ、学問をしたいというのは、人間の本能ですからな。学問をしたいのが本能じゃなくなったのは現代ぐらいのもんです。(会場笑)。今は、ただ黙っていたって教えてくれるのだから、学問への欲望がなくなるのですよ。昔は黙っていたら教えてもらえないし、学問の機会もなかなかなかった。子どもの頃に、人生とは何ぞやなんて疑問が起こっても、誰も教えてくれないから、これは非常に熱烈なものになるのです。だから、京都のどこかにそれを教えてくれる人が出たとなれば、千里を遠しとせず、学びに行く。豆の袋を背負って、豆ばかり食べながら仁斎の講義を聞いたという人がいます。なにしろ面白いことが聞けるんだから、食うものは豆で充分なのです。仁斎の塾はそういう塾だった。
 仁斎というのは、ご存知のように、その頃のアカデミーの学問に大反対をした学者です。つまり、学問をするから百姓がうまくいく、それが学問というものだろうと言った。いくら学問をしたって百姓の仕事に何の足しにもならん、町人の仕事にも何の足しにもならん。そんな幕府の学問というのは学問ではないと言い放った人です。学問とは、人間がどうやって生活したらいいか、その根本を教えるものだ。そういう学問なら、百姓にでも町人にでも役立つはずだな。

小林秀雄『学生との対話』国民文化研究会・新潮社編(75-76頁)
「小林秀雄はかくも親切で、熱く、面白く、分かりやすかった!」



ぜひ小林秀雄さんの声をお聴きください。

◇相当箇所は15:38 からです。
小林秀雄「学問をする面白さは女遊びどころじゃない」(Google ドライブ 音声ファイル)