「空海著, 加藤精一編集『般若心経秘鍵 ビギナーズ 日本の思想』角川ソフィア文庫_新春に『四国遍路』を渉猟する」
昨夕、
◆ 空海著, 加藤精一編集『般若心経秘鍵 ビギナーズ 日本の思想』角川ソフィア文庫の初読・再読を終えた。
『般若心経秘鍵』の〔原文 訓み下し〕はもとより、〔口語訳〕についても、つたない理解に終始した。再読後 時が経過し、『秘鍵』は、『般若心経』の「密教的意味」に則した訳でも、読みでもないことに気づいた。愚かだった。先入観の怖さを知った。
空海は『般若心経』を五つに分け、詳細に論じている(五分判釈(ごぶんはんじゃく))。『般若心経』の各句が、「仏教諸宗そして二乗教(南方仏教、小乗教)」の宗旨から成ることを、次々に判じ、評釈していく。空海のその学識、またその手さばきはみごとである。
そしてついには、「このように考えれば、仏教の各種の悟りの心境も内容も、各種の教えもその依りどころも一切合切がこの経(『般若心経』)に説きつくされており、漏れるものは一つとして無いのであります。欠けているもののあろう筈はありません」(82頁)と結論づけている。
『般若心経秘鍵』は、空海の入定前年の著であり、最晩年の作である。
これについて、加藤精一は、「すべての仏教徒が共に『心経』を読み、あるいは書写することによって、仏教徒たちは同じ土俵の上に乗ることができる。万人に共通の光を求めていた空海が『秘鍵』を著作したのはこのためだったと言える」(128頁)と書いている。
空海の果てしない夢である。
加藤精一は、『般若心経秘鍵 』を「般若心経の真意を読み解く秘密の鍵(かぎ)」(45頁)と口語訳している。それは、空海の心意であり、まったくの新釈だった。
『四国遍路』の渉猟を、
◆ 川崎一洋『弘法大師空海と出会う』岩波新書
を嚆矢とし、
◆ 空海著, 加藤精一編集『般若心経秘鍵 ビギナーズ 日本の思想』角川ソフィア文庫
で終えることができたのは幸運だった。
思いがけずも長期間におよんだが、それは『般若心経』のもつ深遠さに由来するものである。連作は終えるが、寄せる波は続くであろう。よく「持(たも)」つことを心がけたい。
新緑のころには、高野山へ、また東寺へと思っている。