向田邦子「あいつ、くすぐっちゃお!!」

「金属バット事件を起こしたひと言」
「外国人にとっての言葉の重み」
「森繁さんの二つの名スピーチ」
◇「らしい言葉」の貧しさ
 「江戸落語のしゃれたひと言」
◇ 「 “バカ野郎”も “畜生”もあったほうがいい」
川野黎子「向田さんと言葉」



向田邦子「あいつ、くすぐっちゃお!!」
古今亭志ん生さん演じる「火焔太鼓」の中で、骨董屋の若旦那が女房にさんざんにこき下ろされ虚仮にされ、その仇(あだ)を討とうと企んでいる場面で、
「帰ったら今日は女房にさんざんご馳走して腹一杯食わせて、あいつくすぐっちゃお」
という言葉が出てくるんですね。」

「あいつ、くすぐっちゃお」という「洒落たひとこと」に対して向田邦子さんは、
「あたたかみ」
「おかしみ」
「情(じょう)」
「人間の愚かさ」
を感じ、
「目頭が熱くなるんですね」
と話されています。

「人情の機微というものが非常にわかった方が偶然につけ加えたのか、志ん生さんがつけ加えたのか私わかりませんけれども…」
と、お話されています。

以下、

向田邦子さんの、古今亭志ん生「火焔太鼓」
◇ 飯島友治編『古典落語 志ん生集』ちくま文庫
◇ NHK 落語シリーズ 五代目 古今亭志ん生「火焔太鼓」
◇ YouTube にUPされている、古今亭志ん生「火焔太鼓」

上記のいずれにも「あいつ、くすぐっちゃお」という言葉は見つかりませんでした。志ん生さんが、いづれの時期かにつけ加えた言葉のような気がしてなりません。志ん生さんの「あいつ、くすぐっちゃお」に向田邦子さんが感応し、向田邦子さんの講演を聴かれた方々が呼応する。言葉の響きあいの妙を感じています。