「師走に『四国遍路』を渉猟する_『般若心経』邦訳 二篇」
◆ 中村元,紀野一義『般若心経・金剛般若経』岩波文庫
「一、右頁(偶数頁)上段に玄奘訳の『般若波羅蜜多心経』の文をのせ、その下側に漢文の書き下しを記した。この訳が日本では古来最もよく知られ、読まれているからである。さらにその内容をよりよく理解するために、サンスクリット原典からの邦訳を左頁(奇数頁)にのせ、漢文訳と対照させてある。はじめて仏教の経典を眼にするという方には、まず、左頁のみを読み通されるようおすすめする。」(「凡例」9頁)
正統な最も信頼に足る「漢訳」,「書き下し文」であり、「サンスクリット原典」であり、またその「邦訳」である。それは枯淡の美をみるかのようだった。「サンスクリット原典(般若波羅蜜多心経の内実)」と精緻な「邦訳」との相乗効果からなる美の展覧はみごとだった。
もちろん詳細な「註」も付されている。
ただし、「はじめて仏教の経典を眼にするという方には」、敷居が高く、他の解説書から入ることをお薦めします。
◆ 柳澤桂子(著)堀文子(イラスト)『生きて死ぬ智慧』小学館
ひとはなぜ苦しむのでしょう……
ほんとうは
野の花のように
わたしたちも生きられるのです
もし あなたが
目も見えず
耳も聞こえず
味わうこともできず
触覚もなかったら
あなたは 自分の存在を
どのように感じるでしょうか
これが「空(くう)」の感覚です
お釈迦様の気づかれたことは科学的にも正しいことで、わたしたちの認識のほうが間違っているのだと思います。そこに苦しみが生まれます。
般若心経が教える空(くう)について、科学的に理詰めで書くことはできます。しかし、科学的である以前に、もっと崇高に歓喜を込めて、さとりの喜びを表現したい。
この仕事は、わたしにとって天から命ぜられたもののようにも感じられました。
◆ 中村元,紀野一義『般若心経・金剛般若経』岩波文庫
を読み、続けて、
◆ 柳澤桂子(著)堀文子(イラスト)『生きて死ぬ智慧』小学館
を読んだ。読む順序を誤った。饒舌ぶりばかりが目についた。それは、
◆ 中村元,紀野一義『般若心経・金剛般若経』岩波文庫
の陰に霞んでしまった。
しかし、柳澤桂子さんが、「般若心経」にとらわれることなく、自由に書いた「あとがき」は秀逸である。ぜひ、「あとがき」に触れてみてください。わずか三頁ばかりの内容です。立ち読みで間に合います。