「師走に『四国遍路』を渉猟する_結構な寄り道篇」

 還暦を過ぎ訃報に接することが多くなった。家柄、それらは、「日蓮正宗」の儀に則って行われることが多く、読経中には、お経(法華経)本の字面を眼で追っている。
 渉猟するに当たり、近くを通りかかったのでたち寄った。結構な寄り道だった。

◆ 紀野一義『「法華経」を読む』講談社現代新書
を、昨日の午前中には、二回通り読み終えた。
 とかく、「私事(わたくしごと)」が多く、「私」が先陣を切って走っているのは、いかがなものだろうか。
 また、
「岡潔先生が言っていたが、芸術作品を理解するやり方は、信解(しんげ)、情解(じょうげ)、知解(ちげ)という順だそうである。
 たとえば、良寛の書いた『天上大風』という字を見ていると、何だかよく分らないけれども、これは真正のものだとすぐに信じてしまう。これが「信解」というものだという。
 次に、見ていると、気持がよくなり、すがすがしくなり、大らかになる。これが「情解」というものだという。
 あくる日になると、風が左から右に吹いているのだなということまで分るようになる。これが「知解」だというのである。
 岡潔先生は、この「信解」の出所として、道元の『正法眼蔵』恁麼(いんも)の巻であると明記しておられた。
 やはり一流の人というものは眼の付けどころが違っている。道元のこの言葉を、あっというまにそんな風に理解してしまったのは岡潔先生ひとりである。」(159-160頁)
といった、あまりにもたくさんの話題から成り、それらはそれで興味深いが、「新書サイズ」の、過不足のない、「法華経」を展開していただきたかったと思う。学生時代には、これらの豊富なエピソード(「エピソード 法華経」)に魅かれて読んでいたのであろうが…。
先に読んだ、
◆ 川崎一洋『弘法大師空海と出会う』岩波新書
は、意を尽くし、至極真面目であった。
 それに対し、本書の内容は、饒舌に過ぎた、講演の筆記録のような風合いのものだった。
 久しぶりに宗教色一色に染まった。

 ひき続いて、午後には、「道の駅 藤樹の里  あどがわ」近くに位置する、「近江聖人 中江藤樹記念館」で、2021/11/16 に購入した、
◆ 内村鑑三著,稲盛和夫監訳『代表的日本人』講談社
◇「上杉鷹山」
◇「中江藤樹」
◇「日蓮」
を読んだ。

「小林秀雄『正宗白鳥の作について』より_人物編(中編)」
2018/07/25
「正宗白鳥の作について」
『小林秀雄全作品 別巻2 感想 下』新潮社
◇ 内村鑑三、岡倉天心
 内村のこの英文の二冊(『余は如何にして基督信徒となりし乎』,『代表的日本人』)が書かれてから、十年ほどして、やはりこれも続けさまに、岡倉天心の「東洋の思想」「日本の覚醒(かくせい)」「茶の本」の英文の三作が、書かれた事はよく知られているし、日本を海外に紹介した英文による名著として、屢々内村の二作に比較されるが、これらの作で、語られているのは、「日本の覚醒」ではなく、内村という個性、岡倉という個性の覚醒なのである。両人とも、海外文化という輸入品を処理する知識人たる事をきっぱりと辞め、海外文化の輸入を、驚くべき人間形成力として、全的に経験した作家なのだ。従ってこれらの作は、両者の自己発見を語る代表的作品であり、その本質的性質を思えば、これが英文で書かれたという事など二の次の事だ。(234頁)

小林秀雄「同じ内村の悦びに出会う」
2018/07/22
「正宗白鳥の作について」
『小林秀雄全作品 別巻2 感想 下』新潮社
◇ 内村鑑三編
(内村鑑三の)極度に簡潔な筆致は、極度の感情が籠(こ)められて生動し、読む者にはその場の情景が彷彿(ほうふつ)として来るのである。(230頁)

(内村鑑三『代表的日本人』に)描かれた人間像は、西郷隆盛に始まり、上杉鷹山(ようざん)、二宮尊徳、中江藤樹(とうじゅ)とつづき、これを締(し)め括(くく)る日蓮上人(しょうにん)が、一番力を入れて描かれているが、装飾的修辞を拭(ぬぐ)い去ったその明晰(めいせき)な手法は、色彩の惑わしを逃れようとして、線の発明に達した優れた画家のデッサンを、極めて自然に類推させる。これらの人々の歴史上の行跡の本質的な意味と信じたところを、このように簡潔に描いてみせた人はなかった。これからもあるまい。(233頁)

読者は、曖昧な感傷性など全く交えぬ透明な確固たる同じ内村の悦びに出会うのである。(233頁)

 そして、ここでも小林秀雄は、「この人(ストレイチイ)も亦内村(鑑三)の言に倣って、名士達の伝記とは『他なし、彼らの明確なる人格の明確なる紹介なり』」(244頁)と書いている。
「西行」,「実朝」然り、「鉄斎」,「雪舟」然り、小林秀雄の眼は一点に収斂していく。臭みを嗅ぎわける小林秀雄の嗅覚は鋭い。人為を注意深く遠ざけること。無為なるもの、自然(じねん)なること。真空は妙有という風に私は理解している。
 次に進みます。