辻由美『翻訳史のプロムナード』みすず書房

「みずみずしく語る翻訳の『精神史』」
 翻訳家が、情熱家の別名であることを知った。ときには死罪を受けるほどの反逆児にもなることを知った。翻訳史とは文化と文化のはざまで苦戦する者たちのヴィヴィッドな精神史にほかならないことを、辻由美『翻訳史のプロムナード』で知った。
 いい本だ。翻訳という見すごされがちな営みの実質を、翻訳史という知られざる歴史の局面を、じつに明晰でリーダブルな文章によって明かしてみせた。



  では、その(翻訳の)職業倫理とは何か。本書に倣って強引に要約すれば、それは、「訳文に対する“結果責任”をまっとうすること」なのではあるまいか。実例を交えた翻訳の考察、歴史上の翻訳者たちの足跡紹介、翻訳技術論…。本書を貫く記述のすべてが、この基本の延長線上にあると思えるのだ。(今野哲男)


門外漢の私が、須賀敦子「翻訳という世にも愉楽にみちたゲーム」というタイトルのブログを書いたことを、今 恥ずかしく思っています。翻訳とはただならぬ行為です。