「中西進『古代史で楽しむ 万葉集』_はじめから」

昨夜、
◇ 中西進『古代史で楽しむ 万葉集』角川ソフィア文庫
を読み終えた。

「たゆとう命」
 本書は文庫本にして、わずか 250頁に満たない紙数の作品であるが、幾多の人物が登場し、また夥(おびただ)しい死が描かれている。
 万葉の時代は、奸智・奸計が跳梁した権力闘争の世、乱世の時であった。その最中(さなか)にあって、当書は「古代史」と歌を巧みに配した、学徒中西進 渾身の一冊となっている。『万葉集』入門とは、あまりに失礼な物言いであった。
「権謀術数にとりまかれた天平の人々にとって、恋にしか真実の世界がなかったことが、このように恋を切なくしたのだろう。そして彼らはその切なさへの共感の中に己を忘れさせることができた。」(214頁)
「万葉集の特性として、作者のわからない歌をほぼ半数(二千余首)かかえている」「ほとんどみんなが歌を詠む時代であった。」「彼らの歌が個性的でないということは、より深く人間基本の真実を歌っていることを意味する。民衆の真実を基底とすることで、万葉集は広く国民歌集たり得たし、そのためにいかなる読者にも、その感動を伝えることができるのである。」(230-231頁)
「大和の民衆たちは、生活感情を正しい自然との対応の中で歌うことにおいて、自然とひとしく美しかったのである。」(234頁)
「無名歌の世界」が気がかりである。