田部重治「静観的登山」

「山と溪谷 田辺重治選集」
萩原浩司『写真で読む 山の名著 ヤマケイ文庫50選』ヤマケイ文庫

「山は如何に私に影響しつつあるか」は、一九一九(大正八)年、田部重治が慶應義塾山岳会の第五回大会に招かれたときの講演をまとめたものである。慶應義塾の会報『登高行』に講演の内容が掲載されたのち、第一書房版『山と溪谷』に収録するにあたって文章体にあらためられた。講演のなかで、田辺は自分の山に対する感情が、三つの段階に変化してきたことを述べている。

第一は山をあこがれながら山に恐怖を感じた時、第二は山が自己であり自己が山であると感じて、その自己というものの考え方がごく狭い小さな自己を意味していた時、第三には自己は狭い自己を超越した自己であるということを考えるようになった時である。」(78頁)

 そして、次頁には、「静観的登山」の言葉がある。
 田部重治のいう「自己」は、いずれの地平へと広がり、いずこへ収束するかは、選集である『写真で読む 山の名著 ヤマケイ文庫50選』では推しはかるべくもなく、
◇ 田部重治『山と溪谷 田辺重治選集」ヤマケイ文庫
に直接当たろうと、注文してはみたものの、年半ばにしての講演であり、はなはだ心もとなく思っている。