「老後無事」

 父の相続の手続きであたふたしている。年をまたぎ、その煩雑さの内に明け暮れしている。
Amazon に、
橘慶太『ぶっちゃけ相続「手続大全」 相続専門 YouTuber 税理士が「亡くなった後の全手続」をとことん詳しく教えます! 』ダイヤモンド社
を注文し、2024/01/08 に届いた。
 多少の知識とわずかばかりの理解が役に立つ。
 それにつけても思うのは、自らの老後のことばかりである。


「老後無事」
河上肇『閉戸閑詠』
捨て果てし身の なほもいのちのあるまヽに、
飢ゑ来ればすなはち食ひ、
渇き来ればすなはち飲み、
疲れ去ればすなはち眠る。
古人いふ無事是れ貴人。
羨む人は世になくも、
われはひとりわれを羨む
(茨木のり子『詩のこころを読む』岩波ジュニア新書)
 満ち足りた、自足した者の詩(うた)である。

白洲正子『現代日本のエッセイ 明恵上人』講談社文芸文庫
「仏法に能く達したりと覚しき人は、いよいよ(くの字点)仏法うとくのみなるなり」(「遺訓」124頁)
「我れ常に志ある人に対していふ。仏になりても何かせん。道を成じても何かせん。一切求め心を捨てはてて、徒者(いたづらもの)に成り還りて、ともかくも私にあてがふことなくして、飢え来たれば食し、寒来れば被(かぶ)るばかりにて、一生はて給はば、大地を打ちはづすとも、道を打ちはづすことは有るまじき」(125頁)
「生涯此の如く徒者に成り還らば豈(あに)徒(いたづら)なることあらんや」(「遺訓」125-126頁)
 喉もと過ぎれば、それらは方便にすぎなかった。真理とは身辺にあった。明恵上人にとって、それは生活信条だった。
 良寛また然りであった。
 私たちは、行き着く先を、よくわきまえておく必要があると思う。
 
 私ごとき者のために、人の手を煩わしたくない。死期を知りたいと思う。息をひき取ると同時に雲散し、霧消することを願っている。

以下、
です。